KYC(本人確認)とは?目的や実施方法と流れ、実施シーン事例を解説
KYCとは、サービス提供開始時などに行われる本人確認のことです。犯罪の防止や法律の遵守、リスクマネジメントなどを目的に実施されます。本記事では、KYCの概要や個人を対象としたKYCの方法、法人を対象としたKYCのチェックポイントについて詳しく解説します。
目次
KYCとは、サービス提供時に行われる本人確認のことです。犯罪の防止や法律の遵守、リスクマネジメントなどを目的に実施されます。適切にKYCを行わなければ、不正利用やなりすましの原因にもなるでしょう。
本記事では、KYCの概要や個人を対象としたKYCの方法、法人を対象としたKYCのチェックポイントについて詳しく解説します。KYCについて知りたい方、取引におけるリスクを下げたい方は、ぜひ参考にしてください。
KYC(本人確認)とは?

KYC(Know Your Customer)とは、サービスの提供開始・継続時に本人確認を行うことです。直訳すると顧客を知るという意味です。銀行口座の開設やクレジットカード作成などの際に行われ、近年はオンライン上で本人確認を行うeKYC(electronic Know Your Customer)も多く利用されています。
ここからは、KYCにおける以下について詳しく解説します。
- 種類
- 目的と必要性
KYCの種類
KYCには、自然人を対象にしたものと法人・人格のない社団又は財団を対象にしたものの大きく2種類が存在します。自然人とは人間(個人)のことです。企業や組織などが法人に該当します。法律の遵守やリスクマネジメントなどの観点から、個人・法人双方のKYCが欠かせません。
KYCの目的と必要性
KYCの主な目的と必要性は以下の3つです。
- 犯罪の防止と法律の遵守
- 消費者の保護
- 法人のリスクマネジメント
犯罪の防止と法律の遵守
KYCの実施が求められる最大の理由は、犯罪の防止と法律の遵守です。多くの政府では、マネーロンダリングやテロ資金の提供を未然に防ぐために、KYCを要求しています。マネーロンダリング(資金洗浄)とは、犯罪で手に入れた収益の出どころや持ち主をわからなくする行為のことです。
日本でも、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)においてマネーロンダリングなどを防止する目的で、以下を含め全13事業者49業種を対象に、KYCの実施や本人確認実施記録の保管を求めています。
- 金融機関等
- クレジットカード事業者
- ファイナンスリース事業者
- 宅地建物取引業者
- 宝石・貴金属等取扱事業者
犯収法以外にも、以下の法規制でKYCが求められています。
| 法律 | 概要 |
|---|---|
| 携帯電話不正利用防止法 | 不当に携帯電話を複数台所持することや、なりすましの防止などを目的に契約時のKYCを義務付けています。 |
| 古物営業法 | 窃盗などの犯罪を基に入手した品の流通を防ぐ目的で、リサイクルショップや中古品買い取り業者などにKYCを義務付けています。 |
| 司法書士会会則 | 登記や訴訟などの手続き実施時に、KYCと意思確認が求められています。 |
消費者の保護
KYCの実施は消費者の保護にもつながります。近年は、サイバー攻撃による金銭的な被害が増加しています。適切なKYCの実施は、セキュリティ強度を高め不正利用やなりすましを防ぐことにつながるでしょう。消費者に対して安全性の高いサービスの提供が可能です。
法人のリスクマネジメント
KYCを行う目的には、コンプライアンスの遵守とリスクマネジメントも存在します。KYCを実施しなければ、法律に違反したり不正利用やなりすましなどの被害が発生したりします。また、反社会的勢力が自社のサービスを悪用するケースもあるでしょう。KYCの実施を怠ったことにより、企業の信用が低下する恐れがあります。
KYCを構成する2つの要素と強度

KYCは身元確認と当人認証の2種類で成り立っており、強度も定められています。ここからは以下について解説します。
- 身元確認
- 当人認証
- 本人確認の強度
身元確認
身元確認とは、本人確認書類のチェックによりユーザーの実在性を確認することです。ユーザーから提出された以下の書類と申請内容を確認して、偽造やなりすましがないかを確かめます。
- 運転免許証
- 運転経歴証明書
- 在留カード
- 特別永住者証明書
- パスポート
- マイナンバーカード
- 住基カード
当人認証
当人認証とは、事前に登録した認証情報や生体情報を用いてユーザー本人の利用を確認することです。具体的には、以下いずれかを活用します。
| 種類 | 概要 |
|---|---|
| 知識認証 | IDとパスワードやPINコードなど、本人だけが知り得る情報を用いて認証を行う方法です。 |
| 生体認証 | 指紋や顔、音声など本人における固有の身体的特徴を用いて認証を行う方法です。 |
| 所有物認証 | スマートフォンのSMSやアプリを利用したワンタイムパスワードなど、本人だけが所有するモノを用いて認証を行う方法です。 |
認証に成功しなければ、サービスを活用できません。複数の要素を用いた認証を実施することで、セキュリティ強度が高まります。
本人確認の強度
身元・当人確認は、不正防止の強さがアシュアランスレベル(保証レベル)で決められています。NIST(アメリカ国立標準技術研究所)が発表している身元確認の保証レベル(IAL:Identity Assurance Level)と当人認証の保証レベル(AAL:Authenticator Assurance Level)は、以下の通りです。
| 身元確認 | 当人確認 | |
|---|---|---|
| レベル1 | 自己申告による登録で、信用性が著しく低い | 一つもしくは複数の要素を活用した認証を行うため、ある程度の信用性がある |
| レベル2 | 遠隔もしくは対面で確認するため、十分な信頼性がある | 内容が異なる複数の要素を用いた認証を行うため、十分な信用性がある |
| レベル3 | 有資格者が対面で確認するため、信用性が非常に高い | 2要素以上を用いて認証を行い、かつ2要素目は耐タンパ性を有するハードウェアを用いるため、信用性が非常に高い |
耐タンパ性とは、外部からの改ざん(タンパリング)や不正アクセスに対して抵抗力を持つ特性のことです。
KYCの強度は、IALとAALの掛け合わせで決まります。レベルが高い手法を組み合わせれば安全性は高まりますが、手間も増加するためシーンに応じた手法の選択が重要です。
個人を対象とした身元確認の方法

個人を対象とした身元確認の方法には、主に以下の3種類が存在します。
- 対面
- 郵送
- オンライン(eKYC)
順に解説します。
対面
店頭や窓口などで直接ユーザー確認を実施する方法です。チェック担当者が、ユーザー本人と提出書類を直接確認できるため、安全性が高く速やかにチェックを行えます。
ただ、多数のユーザーへの対応には、その分の確認担当者を配備しなければなりません。また、ユーザーが窓口などを訪れなければならないため、事業者・ユーザーの双方に負担がかかります。
郵送
ユーザーが本人確認書類のコピーなどを転送不要郵便や本人限定受取郵便で送付して、その内容を基に確認を実施する方法です。窓口に出向く必要が無いため、対面で実施する方法と比べユーザーの負担を軽減できます。
ただ、郵送にはコストや手間がかかるでしょう。また、郵送による書類の受け渡しには時間がかかります。
オンライン(eKYC)
Webサイトやアプリケーションを用いて、オンライン上で確認を実施する方法です。eKYCと呼ばれており、利用すれば事業者には以下のメリットがあります。
- 本人確認業務の効率化
- コストの削減
- 不正アクセスや利用の防止
- 利用者の途中離脱防止
また、ユーザーにも以下のメリットがあるため、近年多くのシーンで利用されています。
- 手間の削減
- スピーディーなサービス利用
- なりすましの防止
eKYCの詳細は以下をご覧ください。
⇒eKYCとは?注目されている背景とメリットや課題、利用シーン例を解説
個人を対象とした当人認証方法

個人を対象とした当人認証方法には以下の2つがあります。
- 単要素認証
- 二要素(多要素)認証
単要素認証
単要素認証とは、以下いずれか1つの要素によりユーザーが本人かを確認する方法のことです。
- 知識認証
- 生体認証
- 所有物認証
二要素(多要素)認証
二要素(多要素)認証とは、性質の違う2つもしくはそれ以上の要素を用いて本人かを確認する方法のことです。単要素認証に比べセキュリティ強度が高く、なりすましなどに対する防止効果があります。
なお、多要素認証(MFA)に関する詳細は以下をご覧ください。
⇒MFA(多要素認証)とは?仕組みやメリット・デメリット、導入方法を解説
法人を対象としたKYCのチェックポイント

犯収法では、法人を対象としたKYCの以下チェックポイントが示されています。
- 存在
- 住所
- 反社チェック
順に解説します。
存在
取引先が、架空の企業ではなく実在するかを確認します。確認方法は以下の通りです。
- 国税庁法人番号公表サイトでの検索
- 一般社団法人民事法務協会が提供する「登記情報提供サービス」登記情報での検索
- 東京商工リサーチや帝国データバンクなど与信管理などを行う団体からの情報入手
存在確認の実施時には、併せて契約を行う担当者が当該企業の役員・従業員かのチェックも必要です。悪意のある第三者が、正規の企業名を用いて騙そうとする可能性があります。
住所
法人が申請している本社所在地などの住所に問題がないかを確認します。法人登記では、法務局に提出された書類の記載住所に問題がないかの厳正な確認が行われません。架空の住所で登記を行っている可能性があるため、転送不要郵便や往復ハガキなどを送り確認しましょう。
反社チェック
反社会勢力ではないかや、法人自体や所属するメンバーが反社会勢力と関わりがないかを確認します。確認方法は以下の通りです。
- 法人登記情報の確認
- インターネットでの検索
- 反社会的勢力データベースでの検索
- 反社チェックツールの利用
反社会勢力や反社会勢力と関係がある企業と取引すれば、自社の信用やブランドイメージも低下します。顧客離れや売上の低下などが発生する恐れもあるため、厳重な確認が欠かせません。
KYCを実施するシーン事例

続いて、KYCを実施する以下のシーン事例を紹介します。
- 銀行口座の開設
- クレジットカードの作成
- 携帯電話の契約
- 中古品の売買
- マッチングアプリの利用
- 新たな事業者との取引開始
銀行口座の開設
銀行口座の開設時には、犯収法に基づきKYCが必要です。また、長期間使われていなかった口座への入金や出金が行われた際にも、KYCを実施するケースがあります。
クレジットカードの作成
クレジットカード作成時にもKYCが必須です。審査の基準自体は、カードのランクや発行会社により異なりますが、KYCの実施における要件は法律で定められています。
携帯電話の契約
携帯電話の契約時も、携帯電話不正利用防止法に基づきKYCが実施されます。新規や乗り換えの契約時だけでなく、譲渡・貸与時もKYC実施の対称です。
中古品の売買
中古品の売買時もKYCが行われる事例の一つです。古物営業法において、盗難品の売買を防ぐためにKYCが要求されています。オンライン上での取引では、本人確認だけでなくアカウント保持者の情報と入金口座の名義が一致しているかの確認も行われます。
マッチングアプリの利用
マッチングアプリの利用時にもKYCが実施されます。未成年者の利用防止と児童保護を目的とした出会い系サイト規制法に基づき、インターネット異性紹介事業者はユーザーの年齢確認を実施しなければなりません。仕事に関するマッチングサービスやカーシェアサービスでも、信頼性の向上を目的にKYCを実施するケースが増加しています。
新たな事業者との取引開始
新たな事業者との取引を開始する際に、法人のKYCを行う企業も少なくありません。犯収法の対象であるか否かに関わらず、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴対法)や暴力団排除条例(暴排条例)で、暴力団への利益供与防止措置の努力義務が定められています。また、反社会勢力やその関係者と取引すれば、さまざまな悪影響が発生するでしょう。
KYC(本人確認)の流れ

最後に、KYC(本人確認)における以下の流れを紹介します。
- 身分証明書の確認
- 審査の実施
- 審査結果の通知
- サービス提供や取引の開始
1.身分証明書の確認
まずは、本人確認書類を基にユーザーが実在しているかや本人かを確認します。氏名・住所・生年月日などユーザーが提出した情報と、身分証明書に記載の情報に相違がないかをチェックしましょう。
2.審査の実施
続いて、ユーザーが反社会勢力と関りがないかや犯罪歴がないかの確認を行います。また、クレジットカードなどを発行する場合には、収入に対する利用枠の設定に問題がないかも確かめましょう。
3.審査結果の通知
本人確認と審査が完了したら、電話・メールなどの手段でユーザーに結果を通知します。個人情報に関する内容であるため、郵送で通知する場合には親展扱いするなど、取り扱いには十分な注意が必要です。
4.サービス提供や取引の開始
最後に、サービス提供や取引を実際に開始します。カードや書類、アカウント情報などが必要な場合には、ユーザーに送付しましょう。
まとめ

KYCとは、サービス提供時に行われる本人確認のことです。犯罪の防止や法律の遵守、リスクマネジメントなどを目的に、銀行口座の開設・クレジットカード作成・新たな企業との取引開始時に実施されます。KYCを正しく実施しなければ、不正利用やなりすましの発生、反社会勢力への資金提供につながるリスクがあるでしょう。
近年は、サイバー攻撃が増加しているため適切なKYCの実施で、被害を減らすことが重要です。自社サービスの利用者が被害に遭えば、自社の責任問題になるリスクがあります。

