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近年は仮想サーバーと呼ばれる技術が多用されています。物理的にサーバーを用意するのではなく、仮想化の技術を用いて用意するのです。今回は仮想サーバーとは何かと、仮想化のメリットやデメリット、具体的に利用される技術まで詳しく解説します。
目次
仮想サーバーとは、1台の物理サーバーを複数の仮想サーバーとして使う仕組みです。物理的には存在しないサーバーを仮想的に作り出すため仮想サーバーと呼ばれています。
この仮想化を実現するには、物理サーバーに専用ソフトウェア(ハイパーバイザーなど)をインストールする必要があります。このソフトウェア上で複数のOSをインストールして、仮想サーバーに物理サーバーのリソースを分割して割り当てます。
物理サーバーに搭載されているリソースの範囲内で割り当てができるため、物理サーバーのスペックは高めておくことが一般的です。リソースが不足すると仮想サーバーを構築できないため、複数台の仮想サーバーを構築できる物理サーバーを用意します。
物理サーバーは基本的に1台のサーバーに1つのOSをインストールして1台だけのサーバーとして利用するものです。それに対して、仮想サーバーは物理的に1台のサーバーでも、実際には複数台のサーバーとして利用するという違いがあります。
以下の表で、物理サーバーと仮想サーバーの主要な違いを整理します。
比較項目 | 物理サーバー | 仮想サーバー |
---|---|---|
台数 | 1台のハードウェア=1台のサーバー | 1台のハードウェア=複数台のサーバー |
管理性 | サーバーごとに個別管理が必要 | 管理コンソールで一元管理可能 |
可用性 | 障害時は該当サーバーのみ停止 | ライブマイグレーション等で無停止移行が可能 |
性能オーバーヘッド | ハードウェア性能を100%利用可能 | 仮想化層により性能低下の可能性 |
リソース効率 | 平均使用率が低くなりがち | リソース共有により使用率向上 |
詳細は追って説明しますが、サーバー台数に違いが生じることでコスト負担や運用負荷にも違いが生じます。これらの部分も含めて物理サーバーと仮想サーバーには違いがあると認識してください。
仮想サーバーを理解する上で重要な基礎用語を整理します。
サーバー仮想化のメリットは以下の6つが挙げられます。
物理サーバーと比較すると導入コストや運用コストを抑えやすくなっています。
まず、仮想サーバーの場合は物理サーバーのように利用する分のサーバーを購入する必要がありません。例えば、3台のサーバーが必要な場合でも、仮想サーバーであれば物理サーバーの購入は1台で済むのです。これによってサーバーの導入コストを抑えられます。
また、物理的に導入するサーバー数が減るため運用コストを抑えることが可能です。例えば、サーバーを設置するためのデータセンターコストを抑えられます。また、サーバーが故障してしまったり使用期限が来た際に部品を購入するコストも抑えられます。導入時はもちろん運用面においてもコストを抑えられる点が魅力です。
可能な限りサーバーを仮想化することで物理的に必要な台数を減らせます。上記で例を示したように、1台の物理サーバーに3台の仮想サーバーを構築すれば、物理サーバーの数が3分の1になるのです。
物理的なサーバー台数が減ることによって、サーバーを設置しやすくなるというメリットを生み出します。サーバー台数が多いとデータセンターでの運用が求められますが、小規模であれば社内にサーバールームを作るなどの選択肢も考えられるでしょう。
仮想サーバーはソフトウェアの設定によって簡単にリソースの割合を変化させられます。物理サーバーにリソースの余裕があるならば、自由に仮想サーバーのリソースの割合を変化させられるのです。つまり、物理サーバーのリソースが100ならば、仮想サーバーの数や利用状況によって30・30・40や50・50など仮想サーバー個々のリソースを変えることができるということです。
物理サーバーを利用しているとこのような自由度はありません。リソースが不足していると新しい機器を購入して改善するしかないのです。仮想サーバーも物理サーバーのリソースを使い切ると同様の対応が必要ですが、リソースに余裕がある限りは自由に変化させられます。
仮想サーバーはコンソールなどを利用して一元管理できるため、物理サーバーよりも運用負荷が軽減できます。物理サーバーは一元管理が難しいですが、仮想サーバーにすることでこの課題を解決できるのです。
また、仮想サーバーを利用することで同じ設定をすべてのサーバーに適用しやすくなります。例えば、同じタイミングですべてのサーバーに同様のアップデートを適用できるのです。このような運用を実現することで「1つのサーバーだけアップデートしていないことで問題が生じた」などの運用トラブルを防げるようになります。
サーバーを仮想化する技術は冗長構成に対応しやすく、これが障害に強い構成やBCP対策につながります。物理サーバーを利用しているとコスト面から冗長構成を構築しにくいですが、仮想サーバーならば物理サーバーの問題を解決可能です。
仮想サーバーを遠隔地に構築し、定期的にデータをバックアップする運用とすれば、災害や事故・事件などで物理サーバーに障害が起こっても業務を継続できます。近年はBCP対策が重要視されているため、これを実現しやすいことは仮想サーバーのメリットです。
仮想サーバーの大きな利点として、開発・検証環境の迅速な構築があります。これは実務で頻繁に必要とされる重要なユースケースです。
仮想サーバーにはメリットだけではなくデメリットもあります。
この章では以下の5つのデメリットについて解説します。
仮想サーバーを構築するためには専門的な知識が求められます。物理サーバーを構築する際のスキルだけでは対応できないため、新しくスキルの習得が必要となることがデメリットです。
社内で対応できる人材がいないならば、仮想サーバーの導入に向けてベンダーの選定や人材の確保をしなければなりません。サーバー自体にかかるコストが低減できますが、導入前に人材面のコストが生じる可能性があります。
仮想サーバーの基盤に使われている物理サーバーに障害が起きると、構築されている仮想サーバー全てに影響が出ます。例えば、1台の物理サーバーに5台の仮想サーバーが構築されていると、物理サーバーの故障によって5台のサーバーが利用できなくなるのです。
もし、物理サーバーを利用しているならば、故障してもそのサーバー以外には影響が出ません。トラブルが発生した際の影響範囲が大きくなりやすい点はデメリットです。
仮想サーバーのメリットを解説しましたが、小規模な環境ではあまり恩恵を感じられません。時には費用対効果が悪くなってしまう可能性があることはデメリットです。
例えば物理サーバーが100台ある場合と5台しかない場合では、仮想化による恩恵は大きく異なります。基本的にはサーバーが100台になる方が多くの恩恵を受けられるのです。逆に5台しかない場合は恩恵を受けるどころか手間だけがかかるかもしれません。
仮想化層の存在により、物理サーバーと比較して性能面でのオーバーヘッドが発生する可能性があります。特に高負荷なワークロード(データベース、HPC等)では影響が大きくなる可能性があります。
仮想環境では、複数のVMが物理リソースを共有するため、リソース競合が発生しやすくなります。
これらの監視には専用の管理ツール(vROps、Zabbix等)が必要となり、追加コストが発生します。
サーバーを仮想化するための技術は大きく分けて3種類あるためそれぞれ解説します。
ホストとなるWindowsやMacOS、LinuxなどのOS上に、ハイパーバイザー(仮想化ソフトウェア)をインストールする方法です。このタイプは「Type2ハイパーバイザー」とも呼ばれ、既存のOS環境の上で動作します。
このタイプのハイパーバイザー(VirtualBoxやVMware Workstationなど)は、通常のアプリケーションと同様にインストールできます。インストール媒体を用意して、画面の指示に従って進めるだけで導入が完了します。既存のOS環境をそのまま利用できるため、ベアメタル型と比較して導入のハードルが低く、開発・テスト環境などで手軽に仮想環境を構築できます。
ただし、物理サーバー上でホストOSが動作し、その上でハイパーバイザーが動作し、さらにその上でゲストOSが動作するという多層構造になるため、オーバーヘッドが大きくなります。この構造により、物理サーバーのリソースを最大限に活かせず、ベアメタル型と比較してパフォーマンスが劣る点がデメリットです。
ハードウェアに直接ハイパーバイザーと呼ばれる仮想化ソフトウェアをインストールする方法です。ホストOS型(Type2)のように事前に用意したOSの上にインストールするのではなく、ハードウェアに仮想化ソフトウェアを直接インストールします。このため「ベアメタル(bare metal=むき出しの金属)型」と呼ばれます。
物理サーバーにホストOSが存在しないため、サーバーのリソースを最大限に仮想サーバーへ割り当てられる点がメリットです。オーバーヘッドが少なく、構築した仮想サーバーを高性能に動作させやすいことから、エンタープライズ環境では主にこのベアメタル型が利用されています。
ただ、ベアメタル型ハイパーバイザーを導入するためには専門的な知識が必要というデメリットがあります。また、ハイパーバイザーがサポートしているハードウェアを用意しなければならず、既存機器が対応していない場合は新しい機器の導入が必要となる点もデメリットです。
近年新しい技術として「コンテナ」と呼ばれるものが普及しています。これは上記で説明したホストOS型やハイパーバイザー型とは根本的に異なった考え方です。
コンテナ型とは本体や設定ファイルなどのアプリケーション環境をコンテナと呼ばれる独立した空間で管理する技術を指します。ホストOSにインストールされた「コンテナエンジン」を介してそれぞれのコンテナを管理するのです。あくまでも独立した空間であるため、コンテナを導入する際はゲストOSが必要ありません。
上記で説明したサーバー仮想化はゲストOSが必ず求められていました。コンテナではこれが必要なくなるため、仮想化の中でも方向性が大きく異なった独立した技術と考えられています。
仮想化技術を選定する際の参考として、主要な製品・プラットフォームを整理します。
製品名 | ベンダー | 特徴 | 適用領域 |
---|---|---|---|
Oracle VM VirtualBox | Oracle | 無償、マルチプラットフォーム、拡張機能が豊富 | 個人利用、開発/テスト |
VMware Workstation Pro | VMware | 商用、豊富な機能、スナップショット/クローン | 開発者、IT検証環境 |
Parallels Desktop | Parallels | macOS最適化、使いやすい、Coherenceモード | Mac上でのWindows実行 |
QEMU(ホスト型) | OSS | 多アーキテクチャ対応、エミュレーション、柔軟性 | 研究・検証、組込み |
製品名 | ベンダー | 特徴 | 適用領域 |
---|---|---|---|
VMware vSphere | VMware | 業界標準、豊富な機能、高い安定性 | エンタープライズ全般 |
Microsoft Hyper-V | Microsoft | Windows統合、コスト効率 | Windows中心の環境 |
KVM | OSS | Linux標準、無償利用可能 | Linux環境、クラウド基盤 |
Xen | OSS/Citrix | 準仮想化対応、AWS採用実績 | クラウドサービス基盤 |
製品名 | ベンダー | 特徴 | 適用領域 |
---|---|---|---|
Docker | Docker | デファクトスタンダード | 開発環境、マイクロサービス |
Kubernetes | CNCF | コンテナオーケストレーション | 大規模コンテナ運用 |
OpenShift | Red Hat | エンタープライズK8s | エンタープライズPaaS |
Amazon ECS/EKS | AWS | AWSマネージドサービス | AWS環境でのコンテナ運用 |
仮想化製品を選定する際は、以下の5つの観点から総合的に評価することが重要です。
それぞれの観点について、なぜ重要なのか、何をチェックすべきかを解説します。
システムの処理能力と将来の拡張性を見極める
業務システムの要求性能を満たし、将来的な成長にも対応できる製品を選ぶことが重要です。
ビジネスの継続性を確保するため、障害時の自動復旧や計画的なメンテナンスを無停止で行える機能が求められます。
管理者の負担を軽減し、効率的な運用を実現するための機能や、既存システムとの連携性を評価します。
初期投資だけでなく、運用期間全体でのコストを評価することが重要です。
企業の規模や成長計画に合わせた、最適なライセンス形態を選択することが重要です。
仮想化プロジェクトを成功させるために、以下の手順で計画的に進めることが重要です。
サーバー仮想化について詳しく解説しました。物理サーバーではなく仮想サーバーを利用することによって、コストの削減や運用負荷の軽減など数多くのメリットを生み出します。特に現在運用しているサーバーの台数が多い場合は、仮想サーバーに代えることによってより多くのメリットを受けることができるでしょう。
ただ、サーバー仮想化では物理サーバーに障害が起こった際に影響が大きくなるなどのデメリットがあります。また、導入にあたっては専門的な知識が必要となるため、ここも注意しなければなりません。
なお、仮想化はホストOS型とベアメタル型があり、エンタープライズ環境では主にベアメタル型が利用されています。また、別の観点としてコンテナ型も普及しているため、状況に応じて適切な仮想化の方法を選択できるようになりましょう。弊社SMSデータテックでは、仮想化環境を含むインフラ構築から運用まで幅広くサポートしています。最適な仮想化技術の選定・導入を支援するインフラ設計・構築サービスや、構築後の安定稼働と効率的な運用を支援するシステム維持管理サービスで詳しくご紹介しています。お客様のニーズに合わせた最適なソリューションをご提案いたしますので、ぜひお問い合わせください。